政治そのほか速
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「故意の混入の疑いを拭えないが、結論は出せなかった。調査能力と権限の限界と考える」。
STAP(スタップ)細胞の論文不正を調べた理化学研究所調査委員会の桂勲委員長は、昨年12月の記者会見で、こう説明した。
調査委は、残った細胞の遺伝情報の解析などから、STAP細胞の正体は、既存の万能細胞のES細胞(胚性幹細胞)だったとほぼ断定する調査結果を公表した。
しかし、計3回聴取した小保方晴子・元研究員を含め、関係者全員がES細胞の混入を否定し、経緯は突き止められなかった。
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「ATP」という化学物質を巡っても、謎が深まった。
ATPは、細胞のエネルギーとなる化学物質「アデノシン3リン酸」の略称。小保方氏は調査委に対し、STAP細胞作製に必要な酸性溶液を作る原料として、「やっぱりATPを使った方が、断然できるんです」と語った。
小保方氏の実験ノートにも、ATPに関する記述が複数あった。しかし、昨年1月に発表されたSTAP論文に、ATPへの言及はなく、「塩酸を使った」と書かれていた。
作製のカギとなる物質は、なぜ、論文で伏せられたのか。ずさんな論文が世に出た経緯を解明するきっかけになる可能性があり、調査委も関心を示したが、関係者の説明は最後まで食い違った。
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調査と並行して行われた検証実験で、小保方氏と理研チームは、ATPなどを使って、繰り返し作製を試みた。小保方氏の実験は、ビデオカメラと立会人による監視下で行われた。
理研関係者は「小保方氏は、STAP細胞はあると信じ切った感じで、熱心に取り組んでいた」と証言する。
しかし、実験は思うように進まず、昨年12月、打ち切られた。理研関係者は「実験終了の1~2か月前になると、小保方氏は立会人の前で、突然、泣き出すことがあった」と話す。
こうした小保方氏の様子は、大詰めを迎えた調査にも、影を落とした。理研は実験打ち切りと同時に、小保方氏の退職を発表した。その理由を「心労が重なっている」と説明した。
外部の専門家が集まった調査委には、波紋が広がった。退職によって、実質的な処分は免れる。ある委員は「寝耳に水だった。処分を公正に判断するために調べていたのに、しらけた」と漏らす。
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理研は「調査はやり尽くした」とするが、他にも疑問は残る。
論文作成を指導した理研の笹井芳樹氏は、昨夏自殺する前、「ES細胞では説明できない」と語っていた。笹井氏や若山照彦・山梨大教授らベテランの共同研究者は、どうして、不自然な実験データをうのみにしたのか。
丹羽仁史・理研チームリーダーは昨春、疑惑に反論する形で、STAP細胞の詳しい作製方法を追加で発表した。しかし、本当に作製できるかは確かめなかった。なぜ、この時、慎重に立ち止まらなかったのか。
研究不正に詳しい八代嘉美・京都大准教授は「問題が起きた経緯と背景を徹底的に明らかにしなければ、科学界全体の教訓として生かせない」と指摘する。(木村達矢)
(2015年2月22日の読売新聞朝刊に掲載)