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風味堂、“ナキムシのうた”“愛してる”など老若男女に届くヒット曲を生んできたグループならではの苦悩を語る

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風味堂、“ナキムシのうた”“愛してる”など老若男女に届くヒット曲を生んできたグループならではの苦悩を語る

風味堂、“ナキムシのうた”“愛してる”など老若男女に届くヒット曲を生んできたグループならではの苦悩を語る

 

つくづく思うのだ。バンドっておかしなものだな、と。改めて考えてみてほしい。バンドとは、複数人が一緒に音を出すために集まり、自分たちで考えた組織名のもとに活動するものであり、それは一般的な視点で見ればそれなりに特殊な行動だと思うのだ。それ故に、バンドを何年にもわたって続けていくことには、恐らくバンド経験のない人が想像する以上の困難が付きまとう。同僚でもクラスメイトでもなく、ただ音楽で結びついた人たちが共に歩んでいくためには、やはりそれなりの情熱と志がメンバー全員に求められる。

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さて、そこであるバンドの名前をここに挙げたい。今年でメジャーデビューから11年目を迎えたバンド、風味堂。メンバー募集の張り紙を通じておよそ15年前に知り合ったこの三人は、まさに音楽だけを共通項として始まったバンドだ。この三人によって奏でられるポップソングのカタチを模索していくなかで、気がつけば風味堂は大衆に親しまれるヒット曲を世に送り出し、この風変わりなバンド名は、今や世代をまたいで親しまれるようになった。生き馬の目を抜くポップシーンのなかで、彼らはすでに確固たる地位を築いているように見えなくもない。

しかし、やはり物事はそう簡単ではないのだ。決して短くはない活動歴をもつようになった風味堂は、いつの間にか周囲に抱かれていた「風味堂らしさ」をしっかりと受け止めながら、それでも音楽的な探究心を失わず、今も自分たちが作り得る理想的なポップスをひたむきに目指している。それは彼らの最新作『風味堂6』を聴けば明らかで、初期のロックンロール、あるいはジャズやディスコファンクといった黒人音楽を咀嚼し、なめらかに仕立てたそのサウンドは、風味堂にメロウなラブソングのイメージをもつ人はもちろん、これまでの活動を追ってきた熱心なファンにも新鮮な驚きを与えるはずだ。彼らは今も攻める姿勢を崩してはいないし、だからこそ、代謝の激しい日本の音楽シーンをここまでサバイブし続けてこられたのだと思う。では、15年のキャリアを駆け抜けてきたバンドが今見ている景色とは、一体どんなものだろう。風味堂の三人に話を訊いた。

■シングル曲は、気がつくと比較的ゆっくりした楽曲が多くなっていたんです。それは間違いなく僕らの一面でもある。ただ、自分たちの二面性をどう扱っていくべきなのかは、ずっと悩んできました。(渡)
―『風味堂6』は、アルバム全編を通して非常にアップリフティングな作品に仕上がっていて、バンドがこれまでとはまったく違うモードに入っていると感じました。

渡(Vo,Pf):そうですね。前作は活動休止明けに出したアルバムで、「風味堂らしさ」をテーマにして作っていたんですけど、今回のアルバムではまた新たな冒険を始めてみたんです。つまり、今までの風味堂にはなかったアプローチを積極的にやっていこうと。それで結果的に今回はロックな曲を集めた作品になりました。

―なるほど。では、みなさんが前作を作る際に意識されていた「風味堂らしさ」とは一体どういうものだったのでしょうか?

渡:僕らが過去にシングルとして出してきた曲って、バラードや、ミドルテンポのゆったりと聴いてもらえるようなものが非常に多かったんですよ。あるいは心が温まるような曲調と言えばいいかな。そして、恐らくそういう曲調がそのままみんなが抱えてくれている風味堂のイメージにもなっていたと思うんですよね。

―たしかに、風味堂というバンドのイメージは、“愛してる”や“ナキムシのうた”などのヒット曲によって世間に定着した印象があります。ただ、実際の風味堂は非常に幅広い音楽性を備えたバンドでもあるわけで、その周囲がイメージする「風味堂らしさ」に窮屈さを感じた時期も、じつはあったんじゃないかなと思うのですが。

渡:このバンドは元々「こういう音楽をやろう!」と決めて組んだわけではなくて、この三人でやったら面白そうな音楽をゆっくりと探してきたバンドなんですよ。そのなかでシングル曲を選んでいったら、気がつくと比較的ゆっくりした楽曲が多くなっていたんです。だから、それは間違いなく僕らの一面でもある。ただ、その一方で僕らにはライブの定番になっている激しい楽曲もたくさんあって、そういう自分たちの二面性をどう扱っていくべきなのかは、ずっと悩んできました。たとえば出演時間が30分のイベントに出たとき、みなさんが知ってくださっている曲を3曲演奏して、残り2曲にものすごくアッパーな曲を入れ込んだりすると、やっぱりお客さんはびっくりしてしまうんですよね。そのバランスはけっこう難しいところで。

―短いセットリストでその両面を見せるのは、たしかに難しいことなのかもしれないですね。作品を作るうえでのバランスはどうですか?

渡:アルバムを作るときも、やっぱりそのバランスは考えますね。聴いてくれる人が「これは風味堂らしいな」と思ってくれるような楽曲がいくつかは入っていた方がいいと思う。でもそれ以外は、今までになかったような試みや、ちょっとした遊び心も風味堂には必要ですね。同じようなことを繰り返してばかりいるのって面白味に欠けるし、何よりもクリエイティブな気持ちを失いたくないんですよ。僕らがアプローチできるジャンルの幅広さを示せる楽曲は、どのアルバムにも必ず入れるべきだと思ってます。

―今回のアルバムでは、それがロックをはじめとしたアッパーなサウンドだったと。

渡:そうですね。今回の選曲はものすごく悩みました。というのも、楽曲のストック自体はたくさんあったんです。ただ、そこから単純にいいと思ったものを順番通りに選んでいってしまうと、やっぱりアルバムとしてはすごく散漫なものになってしまうから。

■僕は元々METALLICAとかSLAYERあたりのヘビーメタルが大好きで、メロディーや歌詞にはあまり関心がなかったような人間なんです。(中富)
―では、キーワードに挙がった「ロック」とはどういうものなのか、具体的に教えてください。みなさんは音楽的なバックボーンもそれぞれに異なるようなので、きっとそれぞれの思うロック観も違うのではないかと。

中富(Dr):僕は元々METALLICAとかSLAYERあたりのヘビーメタルが大好きで、メロディーや歌詞にはあまり関心がなかったような人間なんです(笑)。

―中富さんのそうした趣向性は基本的に今も変わらず?

中富:もちろん風味堂として活動していくうちに、日本語詞のよさもだんだんとわかるようになってきたんですけど。それに、僕はよく部屋でヘビーメタルのチャンネルを流したままにしてるんですけど、それが最近はだんだんとうるさく感じるようになってきたんですよね(笑)。昔は寝るまで爆音で聴いてたはずなのになぁ。

―(笑)。鳥口さんもハードロックやヘビーメタルがお好きだそうですね。

鳥口(Ba):そうですね。元々、僕はカッチャン(中富)と一緒にヘビーメタルのバンドをやってたんですよ。だから、風味堂でロックをやろうとすると、どうしても僕らはヘビーメタル的な発想になってしまうところがあって(笑)。あとはプログレも大好きなので、自ずとそういう要素を入れたくなるところがあります。

―プログレッシブロックとヘビーメタル。今のところ風味堂のイメージとはなかなか結びつかないワードが続いてますね(笑)。

渡:僕、カッチャンとトリくん(鳥口)と一緒にやってきたなかで見えた傾向がひとつあって。この二人はユニゾン(同じ高さの旋律を複数の楽器で演奏すること)しているときに、ものすごくいい顔をするんですよね(笑)。ユニゾンって僕が好きなブラックミュージックではあまりやらないことでもあるから、それがすごく面白くて。今回のアルバムには二人のそういう部分がかなり反映されてるんじゃないかな。

中富:うん。基本的に僕らが目指しているものは、ど真ん中のJ-POPなんですよ。でも、その一方でこの三人には変化球を投げたいという欲求がそれぞれあって、それを抑え切れないところがあるんです(笑)。僕はそこが風味堂のいいところだと思ってます。

■僕らも時代の変化を見ながら、「もうちょっと今っぽいサウンドにしてみようかな」と思ったこともあるんですよ。中田ヤスタカさんの作るサウンドとか、ものすごくかっこいいじゃないですか。(渡)
―実際にみなさんはデビュー以来ずっとJ-POPのシーンで活躍し続けている。ただ、その一方で風味堂がデビューした頃と現在を比べると、J-POPの様相は大きく変化したようにも思えます。みなさんはシーンの変化をどのように見ていますか?

渡:変化はものすごく感じていますね。僕らがデビューした頃は、ギターロックバンドがたくさん活躍していたんですよね。そんななかにピアノバンドとして登場した僕らが珍しがられていて。今はバンド自体が少なくなったように感じています。

―打ち込みのダンスミュージックや、声優歌手やボカロ系など、いろんなタイプのミュージシャンが出てきましたよね。

渡:僕らもこの時代の変化を見ながら、「もうちょっと今っぽいサウンドにしてみようかな」と思ったことも、じつはあるんですよ。それこそ中田ヤスタカさんの作るサウンドとか、ものすごくかっこいいじゃないですか。でも、僕はとにかく機械が苦手でして(笑)。それで諦めちゃったんです。

中富:まず、パソコンや機材のことを「機械」と言っちゃってるあたりが、すでにダメだよね(笑)。

―(笑)。時代の変化に対応しようと試行錯誤していた時期が風味堂にもあったんですね。

渡:それはもう、ずっとそうですよ。試行錯誤は今に至るまで続いてますから。

―歌詞についてはいかがですか? たとえば周囲で起きている出来事や世のなかの動きなどが、風味堂の歌詞に影響を与えることはあるのでしょうか。

渡:どうだろう。言葉に関しては、あまり時代の変化とかには影響されていないんじゃないかな。

―でも、たとえば新作に収録されている“アイドルとつきあい隊”は、「Twitter」や「Wikipedia」という現代的な言葉が歌詞のなかに出てきますよね。

渡:そう言われると、あの曲に関してはたしかにそうですね。でも、曲は長く聴いてもらえるものであってほしいから、基本的にはあまりにも旬な言葉はなるべく使わないようにしてます。あと、いちリスナーとしての自分は、歌詞にあまり関心がなかったりするんですよ。

―それは意外ですね。

渡:歌の言葉を気にするようになったのは、こうして自分で曲を作るようになってからだと思います。だから、もしかすると今の僕はリスナーだった頃の耳を失ってしまったのかもしれないですね。作る人の耳に変わっちゃった感じはします。

■新たな経験や感動から詞を書くことが、歳をとるにつれて減ってしまっているように感じているんですよね。ただ、「どの時代に聴いてもいいと思える歌にしたい」という気持ちは、常に強くあります。(渡)

―でも、風味堂の楽曲がここまで支持されてきたのは、やはり平易でストレートな言葉で綴られた歌詞の力も大きかったと思うんですよ。だから、渡さんは何から影響を受けて、こういうストーリー性に富んだ歌詞を書けるようになったのかなと思って。

渡:そうだなぁ……。僕は小説とかもあまり読まないんですよね。特に文学的な作品は読んだことがない。だからこそ平易な言葉を歌詞に選ぶ癖がついたのかもしれません。歌詞は1曲ごとにそれぞれの主人公がいるようなイメージで書いてます。その人たちは僕と同じ考えをもった別の人間みたいな感覚というか。

―分身?

渡:そういう感じです。極端な例を挙げると、僕はたまに女性の視点から曲を書くことがあるんですけど、そういうときもどこかで自分の経験は反映されていて。つまり、女性の視点が綴られているようでいて、よく読むとじつはそうじゃなかったりする。あるいはその男女を逆にして読んでもらえれば、自分の恋愛観に近い人物になると思います。

―フィクションのようでいて、じつは個人的な心情や過去の経験がダイレクトに反映されていると。

渡:はい、基本的に歌詞は自分の経験をもとに書いているんですよ。でも、新たな経験や感動から詞を書くことが、歳をとるにつれて減ってしまっているように感じているんですよね。ただ、「どの時代に聴いてもいいと思える歌にしたい」という気持ちは、常に強くあります。

―普遍的な歌を目指しているということ?

渡:そうですね。自分たちの曲が世代を超えていけたら、それほど嬉しいことはないなと思ってます。あと、以前にディレクターの方から言われた言葉で印象に残っているのが、「まずは先に曲が有名になって、あとになってからそれが風味堂の曲だと知られていく方が、音楽が広がっていく順番としては素敵だよね」ということで。僕はそれくらいのパワーをもつ曲を書きたいといつも思ってるんです。

■10年以上ものあいだ、いろいろな気持ちを抱えながらも、なんとかこのバンドを続けてきたんです。(渡)

―一時の活動休止を乗り越えて、こうやって高みを目指しながらデビュー11年目を迎えた風味堂にとって、バンドが続くコツって何なんでしょう?

渡:バンドって、メンバーそれぞれが何かしらのカタチで常に成長し続けなければいけないものだと思うんです。それでもしバンドをやっててワクワクしなくなったとしたら、そのときはもうやめた方がいいのかもしれない。どんなジャンルの音楽をやるにせよ、年齢を重ねる毎によりよくなっていくことが重要ですから。

中富:そうだね。僕ら三人は、誰よりも近い関係であるからこそ、お互いを尊敬してるし、ライバル心も湧くんですよね。足並みを揃えるべきところはちゃんと揃える。そこでもし誰かが一歩抜け出しそうになったら、その背中をすぐに追っていくのが、バンドの正しい姿だと思ってます。まあ、そうやっていくうちに、気がつけば他のミュージシャンから「中学校の頃によく聴いてました!」とか言われるようになっちゃったんですけど(笑)。でも、それって長くやってきたからこそ感じられる喜びでもあるし、だからこそ「ちゃんとしなきゃな」っていう意識も生まれるんですよね。

鳥口:うん。そうやって10年以上も自分たちがやってこれたのは、やっぱり嬉しいことですね。

渡:そうだね。僕、ステージ上では今でもやっぱり緊張するんですよ。それにお客さんがたくさんいてくれると、いつだってものすごく嬉しいし、そうじゃないときはやっぱり悲しい。そうやって10年以上ものあいだ、いろいろな気持ちを抱えながらも、なんとかこのバンドを続けてきたんです。そんななかでまた新しいお客さんに出会えたりすると、やっぱり嬉しくてたまらない。それでまた「あぁ、俺たちはまだまだこれからも発信していかないといけないな」と思うんですよね。

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