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74人が犠牲になった昨年8月の広島土砂災害は、20日で発生から7カ月がたった。現在も1700人以上が自宅を離れて暮らす中、生活環境の変化から体調を悪化させる避難者もいる。被災地周辺では砂防施設整備が急ピッチで進むが、完成には時間を要し、仮住まいは長期化する見込みだ。専門家は行政やボランティアが連携し、被災者の健康状態を把握するなど個別対応の必要性を指摘している。【吉村周平】
災害で自宅を失った安佐南区八木3のパート、森下千早恵さん(66)が、痛む両膝をさすりながら言った。「今日はそんなに曲がってないね」。40代のころから患う変形性膝関節症が被災後、悪化した。痛みが激しい日は仕出し店のパートを休まざるを得ないが、「自宅を失い、将来も見通せない。働かないわけにもいかない」とぼやく。狭心症も発症し、医師には「ストレスが原因」と忠告され、薬が手放せなくなった。
森下さんは昨年9月下旬、避難所から夫の義由(のりよし)さん(68)とともに、無償で入居できる市が借り上げた安佐北区の民間アパートに入った。慣れない集合住宅に加え、すぐ近くを通る国道の車の音や隣近所の生活音で寝付けない日が続いた。
これまでは徒歩で通えた勤務先には、義由さんが毎朝車で送っていく。そのため、大工の義由さんは早く着いた現場で時間を潰さねばならず、大工道具を積み込んだ軽自動車の車内では座席を倒すこともできずに「正直、しんどいよ」とため息をもらす。
「このままでは2人とももたない」。そんな危機感から、知人の紹介で元の自宅やパート先の近所に貸家を見つけた。市住宅政策課によると、無償の公営住宅や借り上げ住宅から転居する場合、原則として支援は打ち切りになるという。森下さんも市に相談したが一度は打ち切りを告げられた。「家賃も安くなるし、市に迷惑はかけていないのに」と支援継続を訴える一方、今月18日に引っ越した。転居に伴う費用は自己負担した。
同課は「多くの被災者がそれぞれ事情を抱えており、利便性を理由とした住み替えは認められない」と話す。ただ、エレベーターのない階に入居した高齢被災者の転居を例外的に認めたケースがあるといい、同課は「健康上の理由からやむを得ない場合は個別に検討したい」として、森下さんのケースも改めて検討中という。
日本赤十字広島看護大学(廿日市市)の真崎直子教授=公衆衛生看護学専攻=は「避難が中長期化しており、行政はボランティアと意見交換しながら被災者の情報を共有し、事情に応じた柔軟な対応をとる必要がある」と指摘する。さらに被災者が地元から離れて暮らす場合、近所付き合いや交友関係が途絶え、ストレスや孤独感などから心身の不調につながるケースも多いという。真崎教授は「被災者が元のコミュニティーとつながり、自助、互助、共助を強めることができる仕組み作りなど、孤立化させないための支援が必要だ」と強調する。