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「毎日がなつやすみだったらいいのになぁ……」。現代版労働歌を歌うザ・なつやすみバンドがメジャーデビュー

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「毎日がなつやすみだったらいいのになぁ……」。現代版労働歌を歌うザ・なつやすみバンドがメジャーデビュー

「毎日がなつやすみだったらいいのになぁ……」。現代版労働歌を歌うザ・なつやすみバンドがメジャーデビュー

 

現代の音楽にとって重要なのは、「どの弱さに立つのか?」ということなのかもしれない。人生においてすべての苦しみから解放される瞬間なんてなくて、どんなタームにおいても、そのときなりの苦しみがある。だからこそ、音楽は「エスケーピズム(=現実逃避)」と切り離して語ることはできないのだが、近年世代を問わず、それについて話す機会が増えたというのは、やはり現代が「困難多き時代」であることの表れなのだろう。そして、そんな時代において、ザ・なつやすみバンドはあくまで市井の人々の視点に立つ。「毎日がなつやすみだったらいいのになぁ」。そう言って笑い合いながら、季節のように移ろう喜怒哀楽と共に、日々を生きていこうじゃないかと。

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2012年に発表したファーストアルバム『TNB!』が、自主制作ながら『CDショップ大賞』にノミネートされるという異例の評価を獲得したザ・なつやすみバンド。自身のバンド・片想いや、ceroのサポートなどで活躍するMC.sirafuが在籍するバンドとしても知られる4人組が、セカンドアルバム『パラード』でメジャーへと進出する。スティールパンやトランペット、バイオリンなどによる色鮮やかな音色と、プログレッシブに展開する組曲形式の楽曲が個性的だが、あくまで歌を中心とした普遍性のあるポップスとして着地していることが素晴らしく、文句なしの傑作だと言っていいと思う。結成当初からのメンバーである中川理沙とMC.sirafuに、バンドの根幹についての話を聞いた。

■ザ・なつやすみバンドは、メジャーの力を借りたときに、何倍にも何百倍にも膨らむようなポップスの力を、ちゃんと蓄えてるバンドだと思うんです。(MC.sirafu)

―ザ・なつやすみバンド(以下、なつやすみ)はインディーズで自分たちのペースを大事に活動しているバンドという印象があったので、メジャーデビューは驚きました。

MC.sirafu(Trumpet,Steelpan):そういうイメージを出しちゃってたかなとも思うんですけど、一生インディーズでやりたいわけではなかったんですよね。前作に関しては、「今の時代、こういうやり方もあるよね」と思って作ってたんですけど。

―中川さんはメジャーとインディーズについて、どうお考えでしたか?

中川(Vo,Pf):「メジャーがいいなあ」とは思ってたんですけど、ホントに出せるとは思ってませんでした。

―「メジャーがいい」と思っていたのは、何が理由ですか?

中川:多分、メジャーじゃないと届かないところってあるじゃないですか? インディーズだと、音楽を掘り下げていろいろ聴く人じゃないとなかなか届きづらいと思うんです。音楽が好きな人たちはもちろんだけど、子どもからお年寄りまで聴いてもらいたいと思ってたので、メジャーから出せたらなって。

sirafu:うくつしきひかり(中川とMC.sirafuのデュオ)はインディーレーベルから出してたり、片想いやceroとか個人的にいろんな活動をする中で、宣伝に関しては、自分たちでできる限界があるってすごく思ったんですよね。なつやすみに関しては、自分たちだけではできないことを、人の力を借りて手伝ってもらえればなと思って。その結果、SPEEDSTAR RECORDS(くるり、斎藤和義などが在籍する、ビクター内レーベル)から出させてもらえることになったんです。

―シラフさんがいろんなバンドで活動をされている中で、なぜなつやすみはメジャーがいいと思ったのでしょう?

sirafu:なつやすみが持つ「ポピュラリティー」ですよね。メジャーの力を借りたときに、何倍にも何百倍にも膨らむようなポップスの力を、ちゃんと蓄えてるバンドだと思うんです。

―シラフさんはバンドに途中から加入されていますが、中川さんは結成当初から「大衆性のあるポップス」っていうのを念頭に置いていたのでしょうか?

中川:最初は自分から出てきたものを作ってただけで……今もそうと言えばそうなんですけど(笑)。シラちゃん(MC.sirafu)が入って、「もっとちゃんとやりましょう」って話もしましたし、シラちゃんは私には作れない曲も作ってくるから、加入したことでだいぶ変わりましたね。

sirafu:僕は他のメンバーより一回りくらい世代が上なんですけど、僕の世代がポップミュージックをやろうとすると、ちょっと意地悪な感じで意図的に小出しにしたりとか、音楽的な感じでやろうとしちゃうんです。でも、なつやすみはそれが無意識にできてるなって思ったんですよね。パッと曲を作ると、恥ずかしげもなくポップな曲ができちゃう。そのバランスが絶妙だなと思って、そこに光というか、可能性を感じて。さらに、そこに僕が入ってもう少しかき回したら、音楽的にちょっと変で、押しつけがましくないポピュラリティーを持ったバンドになるんじゃないかって。

■やっぱり今の時代に現実逃避は必要で、それがないとやっていけない。だけど、現実から逃げちゃダメじゃないですか?(MC.sirafu)

―「ザ・なつやすみバンド」という名前に関しては、「聴いた人が現実逃避できるようなバンドにしたい」という考えからつけたそうですね。

中川:そうです。現実逃避するための音楽というか、一瞬だけでも逃げられるような場所を作るっていう。それは自分のためでもあるし、聴く人にとってもそういう音楽を作れたら嬉しいなと思って。

sirafu:僕、最初はあんまりいい名前だと思わなかったんですよね。でも、今は時代に必要とされてる気がして、「こんないいバンド名ないな」って思ってます。

―現実逃避をするための何かが必要な時代だと。

sirafu:まあ、ホントの現実逃避をしちゃったら、ヤク中になって死んじゃうのでダメなんですけど(笑)。例えば、ライブに来てくれるお客さんと話すと、みんなちゃんと仕事をしてて、何らかのストレスがあって、そのエスケープとしてライブに来て楽しんでるわけですよね。そういう人たちと接してると、やっぱり今の時代に現実逃避は必要で、それがないとやっていけない。だけど、現実から逃げちゃダメじゃないですか?

中川:逃げられないしね。

sirafu:なので、「なつやすみ」っていうのが、必要とされてるワードになってきた感じはしていて、“S.S.W(スーパーサマーウィークエンダー)”は、そのことを歌ってるんです。

―まさにそうですよね。最後の<毎日がなつやすみだったらいいのになぁ・・・・>の後には、「まあ、そんなことないんだけどね」って続く感じがするというか。

中川:そう、「ありえないけどね」っていう。

sirafu:そこまでコンセプチュアルなバンドになるつもりはないんですけど、ただ根底として、自然と入ってきてるものなのかなって。

―“S.S.W(スーパーサマーウィークエンダー)”は、<金曜日 土曜日 日曜日 迫る波 乗りこなして めざせ!>って歌詞とか、実際に働いている人の目線が入ってますよね。

sirafu:ちゃんと働いてる人って、やっぱりすごいなって思うんですよ。僕も前までフルタイムで働いていたんですけど、1週間っていうサイクルの中で、すごく嫌なこととかを抱えつつも、週末にはクラブに行ったり、楽しむときは楽しんでる。そういうバランスのとり方、ガス抜きの仕方って、僕には真似できないと思って、それはその人たちの才能だと思うんです。個々が自分なりのバランスのとり方を持っているっていうのは、今の時代をたくましく生きるやり方だなって。だから、これは応援歌とかじゃなくて、労働歌なんですよね。

―中川さんも今の時代感として、現実逃避が求められてるように感じますか?

中川:あんまり時代がどうとかはわかんないですけど……私はもともとすごく暗くて、大学生のときとかから、バイトもあんまり上手くできなくて、どうしようもなかったんですよね。みんないろんな生きづらさを持ってると思うんですけど、そういうのを抱えてる人たちが聴いてくれるといいなと思って曲を作ってます。

―具体的に、ご自身の経験が反映されてる曲ってありますか?

中川:今回で言うと、“ファンファーレ”です。大学を卒業してから、ずっとパン屋のカフェで働いていて、そこには普通に働いている人から、仕事をしてないおじいちゃんおばあちゃんまで、いろんな人が来るんですね。そういう人たちの接客をして、話を聞いてあげたりもする中で、「いろんな人生があるんだな」ってしみじみ思って、ここの風景を曲にしたいと思ったんです。それに加えて、ライブに来る人とか、これまで出会った人たちのことも考えて作ったら、仕事と音楽がつながりました。前はただ「逃げたい」って気持ちで曲を作ってたけど、“ファンファーレ”ができて、戻ってくるための曲ができたなって。

■“パラード”ができて、「こういうバンドになりたかったんだよな」って思ったんですよね。(中川)

―アルバムとしてのテーマや青写真のようなものはありましたか?

中川:前のアルバムを出したときくらいに、“パラード”っていう曲がもうできてて、言葉の響きがすごくよかったので、「次のアルバムは『パラード』にしよう」って言ってたんです。なので、その曲が最初の方に入るっていうのは何となく決まってて、気がついたらいい流れになったなって。

―“パラード”は最初から今みたいな展開の多い曲だったんですか?

中川:いや、最初は私が作ったイントロとAメロしかなくて、サビが思いつかなかったんですけど、シラちゃんが「僕、サビ作るの得意だから」って言ってサビを作ってくれて、あとはみんなで考えていったのかな。

sirafu:展開の多い組曲みたいな要素は彼女がすごく持ってるので、自然とそうなったんだと思うんですけど。

―組曲的な展開の多さっていうのは、“パラード”のみならず、全体的に前作以上だと思うんですけど、これはつまり“パラード”っていうタイトルが、エリック・サティ(フランスの作曲家)がバレエ用に手掛けた組曲“パラード”からきていることの表れなのでしょうか?

sirafu:いや、僕はジャック・タチの『パラード』(1974年に公開されたテレビ映画。ジャック・タチが監督、脚本、主演を務めた)から取ったんですよ。いろんな生き方があるというか、サーカスをみんなで見てて、そこに喜怒哀楽があってっていうイメージ。バレエの“パラード”は、あとから知ったんです。

中川:私は最初「パラード」って言葉自体を知らなくて、ネットで調べたら、サティが出てきて、私サティは好きだったので……って、“パラード”は知らなかったんですけど(笑)。

―じゃあ、“パラード”っていうタイトル自体は偶然だけど、クラシックはもともとお好きで、それが展開の多さにつながってると。

中川:そうですね。最初は踊れる音楽を作りたいと思ったんですけど、クラブミュージックみたいなのは作れないから、バレエとかのイメージの曲を作りたいと思ってました。あとディズニーの音楽も大好きで、この曲を作ったときは改めてディズニーのサントラを聴きまくってて、ディズニーの曲も展開がすごいから、その影響もあると思います。“パラード”ができて、「こういうバンドになりたかったんだよな」って思ったんですよね。あのガチャガチャした感じというか、楽隊っぽい感じ。それが形になって、しかもその曲がアルバムタイトルにもなったのはすごく嬉しいです。

■アルバムはパッケージとかも含めて作品だと思っているし、自分たちだけのものじゃないと思ってるんです。(MC.sirafu)

―今回もジャケットは、これまでも一緒にやっていた惣田紗希さん(デザイナー、イラストレーター。ザ・なつやすみバンドの他、王舟、ceroなどのジャケットデザインを担当)が手掛けられていますね。

sirafu:「アルバム」ってことに関して言うと、ものを買ってほしいんですよね。アルバムはパッケージとかも含めて作品だと思ってるし、自分たちだけのものじゃないと思ってます。

―かつては短冊形のCD(2013年発表の『サマーゾンビー』)もリリースしていたり、ものに対するこだわりは強いバンドですよね。

sirafu:それこそ、今回はメジャーでリリースということもあって、レーベルのスタッフにもいろいろ協力してもらったし、カメラマン、デザイナー、スタイリスト、そういう人たちも全部含めて、ひとつの作品だと思うんです。配信もやりますけど、質感とかも含めて作品だと思うし、「アルバムをSPEDSTAR RECORDSから出す」って決まったからには、自分たちのやりたいことをこだわりつつ、それをみんなでひとつの作品にしたいっていうのは強く思ってますね。

■東京だけ、1日にいろんなところでライブをやってて、それも全部消費されちゃう。そうじゃなくて、もっとバンドが行き来すれば、もっと活性化すると思う。(MC.sirafu)

―では最後に、バンドとしての今後の展望を話していただけますか?

sirafu:まずはアルバムが出て、どういう反応が返ってくるのかが楽しみですね。今まで関われなかったいろんな人とつながれたらいいなと思ってます。アニメの主題歌とか、そういうポピュラリティーの方向にも興味はあるし、そういう仕事が来たら面白いなって、漠然とした希望はあります。

中川:まだこれからどうなるかは全然わからないんですけど……テレビに出たい……のかなあ?(笑) まあ、とにかく新しいことをやって行ければいいと思います。人との関わり方とか、今まで大事にしてきたことを変わらず大事にしながら、その上で変わって行けたらいいですね。

sirafu:そう、結局人次第だよね。

中川:今までも人との出会いがあって曲ができてきたから、これからもそこが変わらなければいいのかなって思います。私はホント人に恵まれてて、運がいいだけだと思うんです。自然といい出会いが重なって、導かれてる感じがします(笑)。

sirafu:ライブで地方に行くようになったのは大きいと思いますね。これからも、呼ばれたらどこにでも行きたい。物事って、行かないと始まらないんですよね。

―「東京インディー」とか言ってる場合じゃないと。

sirafu:ホントそうですよ。自分たちが動いていかないと、自分たちが困るだけですから。東京だけ、1日にいろんなところでライブをやってて、それも全部消費されちゃう。そうじゃなくて、もっとバンドが行き来すれば、もっと活性化すると思うし。

―何より実際にその場所に行くことだと。

sirafu:そうかなと思います。待っててくれる人がいれば、そこに行くことによって、こっちも得るものが大きいですからね。ここ2~3年で遠くにいるファンと出会ったり、場数を踏んだことで、中川の歌も外に向かう歌い方に変わりましたからね。人に届く歌というか。

中川:私は自分の歌を歌ってるっていうよりは、聴いた人の歌になってほしいと思ってるんです。ただ、『TNB!』を出す前は、遠くにいる人たちと出会えてなかったから、聴いてくれる人のことって、あんまりイメージができてなくて。歌のレコーディングも、今回はスタジオで録ったけど、前まではシラちゃんの家で録ってましたからね。

sirafu:やっぱり歌っていうのは、その人に届いた時点で、その人の所有物なんですよね。なので、僕も歌詞に関しては、あんまり魂を入れないようにしてます。その人がその曲を聴いて口ずさんだときに、あくまでその人の心で持ち歩けるような、そういう所有物になったらいいなって。聴くシチュエーションによって、曲って変わるじゃないですか? 思いがけない曲がシャッフルで流れたときの景色、季節、シチュエーション、そのときの感覚っていうのを大切にしたいんですよね。自分が何を伝えたいかとかよりも、聴いてる人それぞれの気持ちによって風景が変わって見える。そこが音楽の一番面白いところだと思うんです。

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