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藤田巌さん 73歳 「出前美容室 若蛙」 代表取締役
「すそ髪の長さを整えたら、仕上げのブローで全体にボリュームを持たせますね」
2月中旬、東京都内の病院。美容師の藤田巌(いわお)さん(73)は、リハビリで入院中の女性(87)に優しく声を掛けながら、ハサミやクシを自在に操った。
藤田さんが取り組むのは、外出が困難な高齢者らのもとに出向き、ヘアカットなどを行う訪問理美容だ。2001年に横浜市内で開業し、07年には東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県を営業エリアとする「出前美容室 若蛙(わかがえる)」(東京都世田谷区)を設立した。移動式洗髪台など道具一式を積み込んだ車のハンドルを自ら握り、病院や介護施設、高齢者の自宅などを駆け回る。
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大手電機メーカーを、営業推進部長を最後に58歳で定年退職した。第二の人生を意識し始めたのは、50歳の時。「定年後は、全く違う分野で、何か人の役に立つことをしたい」。漠然とした思いは、ふと目に留まった新聞記事で具体的になった。
記事は、施設で寝たきりだった高齢女性が美容師に髪を整えてもらうと、うれしさのあまり、あちこちの部屋に歩いて顔を出すようになったという内容。「美容師には、医師とは違うやり方で人を元気にする力がある」と気付かされた。当時、がんで入退院を繰り返しながらも「美容室に行きたい」と話していた母、信(のぶ)さんの姿も脳裏をよぎった。
在職したまま、同僚には内緒で、美容専門学校の通信制で学んだ。実技のスクーリングには、有給休暇を充てた。卒業後も、平日は朝4時に起きて出勤前に自宅で2時間練習し、土日は美容室のインターンに励んだ。美容師国家試験は56歳の時、3度目の挑戦で合格。57歳でホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)も取得した。
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退職時のあいさつ状に「介護のできる美容師になる」と決意をつづってから約16年。当初はチラシ配りに明け暮れたが、丁寧な仕事ぶりや便利さが評判を呼び、現在、「若蛙」は、美容師ら40人以上の有資格者を抱え、得意先には160以上の病院・施設が名を連ねるまでになった。それでも、「私が率先して働き、後進を育てないと」と、訪問理美容のノウハウを伝える講演活動にも力を入れる。
「女性も男性も、いくつになってもきれいで、かっこよくいたいもの。高齢化が進む中、需要はますます拡大する。もっと普及させるには、私の人生だけでは足りません」(社会保障部 石原毅人)
実技と筆記 国家試験
理容師や美容師になるには、それぞれの国家試験に合格し、免許を取得する必要がある。
試験を実施する「理容師美容師試験研修センター」などによると、受験資格は原則、厚生労働大臣が指定する専門学校などに入学し、通学制では2年以上、通信制では3年以上の課程を修めて卒業すると得られる。
国家試験は毎年、春と秋の年2回実施され、実技と筆記の両方が課される。2014年の合格率は、春・秋の平均で、理容師60.7%、美容師74.4%だった。合格後、理容師名簿または美容師名簿への登録を、同センターに申請する。