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消費者庁が2月、表示に根拠がないとし、空間用虫よけ剤を販売する4社に措置命令を出したことから波紋が広がっている。根拠なしとしたのは、効き目の範囲や「バリア」などとした表示についてだが、報道で虫よけ剤の対象が人を刺す蚊と異なることを知った消費者からは「だまされた」との声も上がっている。同庁は「薬剤の効果を否定するものではない」としているが、実際のところ、蚊に効くのか、効かないのか…(平沢裕子)
■対象は人を刺さないユスリカ…
空間用虫よけ剤が寄せ付けないとする虫は、主にユスリカとチョウバエ。ユスリカは日没時などに蚊柱を作る小さな虫で、ハエや蚊の仲間。見た目や名前からアカイエカなど人を刺す蚊と同じと思いがちだが、人を刺して吸血することはなく、病原体を媒介することもない。
一方、チョウバエは浴室や台所など水回りに発生する小さい虫で、食品工場などで食品に混入することが多いことから関係者には警戒される虫の1つだ。
今回対象となった商品を、2年前から玄関とベランダ、寝室や居間の窓など計5カ所に使っていた東京都江東区の40代主婦は、「室内に虫を入れないために使っていた。刺す蚊にも効果があると思っていたのに…」と憤る。
また、埼玉県ふじみ野市の60代主婦は「テレビなどのCMを見て、当然、刺す蚊にも効くと思って数年前から買って部屋につるしていた。商品に書かれた文字をよく見ていなかったし、素人が血を吸う蚊かどうかは分からない」。
対象となったメーカーなどにも問い合わせが相次いでおり、ネット上には「つるしていたのに蚊が部屋に入ったことがある」「大半の人が蚊にも効くと思って買ったんじゃないのか」といった書き込みが散見される。
虫よけ剤によく使われている「ピレスロイド系」薬剤のピレスロイドとは、除虫菊に含まれる有効成分の総称。ほ乳類や鳥類に対する毒性が弱く、昆虫には強力に作用することから多くの殺虫剤に使われる成分だ。蚊取り線香が蚊を殺すのもこの成分のためで、蚊に効果があるのは長年の経験で実証済み。薬理学を専門とする唐木英明・東大名誉教授は「ピレスロイドは昆虫の神経に作用する薬。ユスリカに効けばアカイエカにも効くと考えるのが普通」と指摘する。
■実験を「蚊」で行うメーカーも
しかし、今回の措置命令を受け、アース製薬は「蚊を対象とした商品ではありません」との表示を追加した。広報担当者は「有効成分は蚊にも効くが、効果はマイルド。お客さまに誤解を与えないように表示を改めた」と説明する。
一方、大日本除虫菊は「使用目安の範囲は屋内テストの結果」「屋内と屋外の境目に吊るして下さい」などの表示追加にとどめ、蚊への効果についてはとくに言及していない。興和も「シャットアウト」を「対策」、「三次元バリア」を「三次元に広がる」との表記変更にとどめた。
実は、大日本除虫菊は除虫効果の検証実験にアカイエカも使っている。ユスリカやチョウバエは飼育が難しく、害虫として長年研究されているアカイエカの方が実験に使うためのノウハウがあるためだ。広報担当者は「アカイエカへの効果については言えないが、リピーターのお客さんがいるのは効果を実感していただいているからだろう」。
アカイエカなど人に害がある「衛生害虫」への効果の表示は「医薬品」または「医薬部外品」でないとできない。医薬部外品は、人体への作用が緩和なものとして販売規制はないが、医薬品医療機器法(旧薬事法)が定める有効性や安全性の審査を受ける必要がある。今回、措置命令となった商品は医薬品や医薬部外品ではない、いわゆる「雑貨」で、アカイエカの表示がないのはこのためだ。
■業界で「自主ルール」を
フマキラーは、「虫の侵入を完全に防ぐものではありません」などの表示変更はすでに行ったが、「消費者庁に提出した実験効果が正しく評価されていない」とし、不服申し立てをするかを含め検討中だ。アカイエカを使った実験をしているかについては「ノーコメント」とするが、「医薬部外品の承認を得るには6~7年かかる」とし、雑貨での販売は変わらない。
殺虫効果をうたう蚊取り線香や液状の蚊取り剤などは医薬部外品。同じ成分を使っているのなら、虫よけ剤も医薬部外品の承認を受けてもいいように思うが、虫よけ効果を判定するための試験法は確立されていない。使用方法の規定や安全性の試験も厳しく、業者にとってはアカイエカと表示するために医薬部外品の承認を受けるよりは、雑貨として販売した方がメリットが大きいとの判断も働く。
帝京平成大薬学部の斎藤充生准教授は「今回の商品が実際にどれだけ虫よけ効果があるのか、消費者には分かりにくいのも事実。虫よけ効果について業界が標準的な試験法や条件を決めて、自主基準に合うことを表示するなどの仕組みを作ってもいいのではないか」と話している。