政治そのほか速
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忙しさで体力はすり減り、ストレスも高まる。こんな状況から抜け出したい。2~3日だけでもいいから遠くへ行きたい。そんな経験は誰にでもあるだろう。しかし、ほとんどの人は実践しないまま、日常に戻ってしまう。ところが彼は違った。1995年6月。システムエンジニアの若手として活躍中の鈴木周作さん。当時22歳。
子どものころから鉄道好きだった。北斗星には1988年の運行開始直後に乗り、その後も何度か乗った。しかし、働き始めてからは旅に出る余裕はなかった。通勤の途中、上野駅などで眺めるだけだ。当時、北斗星は3往復あった。そのうちのJR北海道保有車の編成に憧れた。車体に掲げたエンブレム、食堂車の赤いテーブルランプ。あれに乗って、目覚めれば北海道か……。忙しくなってはじめて北斗星の魅力に気づく。
その日、激務のひとつが区切りを迎え、久しぶりに長い休みを取れた。しかし、休暇の初日はトラブルがあり、結局、仕事に駆り出された。「もう、とこか遠くへ行ってしまいたい」と思った。その日の帰宅の途中で、彼はふらりとみどりの窓口に立ち寄った。
「今日の北斗星のロイヤルは空いていませんか」
上野発札幌行きの北斗星は人気の列車だ。とりわけ1列車に4室しかないロイヤルが当日に空いているはずはない。贅沢(ぜいたく)かもしれない。しかし、残業続きで遊ぶ暇がなかったから、お金にはゆとりがあった。だから賭けたのだ。空いていたら旅に出よう。空いていなかったら、いつもの休日のように、家でぼーっとしていよう。ところが……。
「空いていますよ」
みどりの窓口には神様がいる、と鈴木さんは思ったそうだ。
この時から、鈴木さんと北斗星との長い付き合いが始まる。2015年3月までの27年間で、乗車回数は457。2月2日には書籍『北斗星乗車456回の記録』を上梓した。北斗星の廃止が決まって以来、多くのメディアが彼に取材を申し込んでいる。テレビや雑誌で彼を見た人も多いだろう。
本のタイトルは456回だ。しかし現在の記録は457回。出版後に1回乗車している。その457回目に私が同行した。私は4年前に彼のブログを見つけて、札幌の鈴木さんとメールで取材させていただいた。その時「いつかお目にかかりたい、てきれば北斗星で一緒に旅をしたい」と伝えていた。その願いを鈴木さんは覚えていてくれた。
2月24日。上野発札幌行きの北斗星。16時間の車中で雑談含みのロングインタビューを敢行した。…