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2月21日に、膵臓がんのため、59歳で亡くなった歌舞伎俳優の坂東三津五郎(ばんどう・みつごろう)さん。2001年に10代目坂東三津五郎を襲名する以前の名前、5代目坂東八十助(ばんどう・やそすけ)で記憶してらっしゃる方も多いかもしれません。
日本舞踊坂東流の家元であり、舞踊の名手だった三津五郎さんは、『喜撰』の喜撰法師や、『勧進帳』の武蔵坊弁慶が当たり役。歌舞伎の舞台だけでなく、06年放映の大河ドラマ『功名が辻』や、映画『母べえ』(08年公開)などの映像の世界でも活躍されました。
25日に行なわれた葬儀では、先輩の歌舞伎俳優・尾上菊五郎さんが「あなたは『姫路城が好きだ、彦根城が好きだ』と言っていたけど、ホステス嬢やキャバクラ嬢も好きでした(中略)。どうか向こうの世界のネオン街で、いい店を探しておいてください。私がそちらにいったら、いい店を紹介してください」と軽妙洒脱な弔辞を述べたのも注目を集めました。
実は、「物心ついたときには、すでに大好き」だったという、歌舞伎界きっての城マニアだった三津五郎さん。BS朝日『日本の城ミステリー紀行』で進行役として”城案内人”も務めていたほか、大好きな城の魅力について余すところなく語っているのが、本書『坂東三津五郎 粋な城めぐり』。
自身が主演を務めた2時間ドラマ『湯の町コンサルタント』のロケ地になった長野県の松本城をはじめ、それぞれの城にまつわる”ものがたり”を、三津五郎さん自身の出演作も絡めて紹介しているのが本書の特色です。そのなかでも、三津五郎さんが「僕にとってはいちばん思い入れのある大好きなお城」(本書より)と語るのが、小学2年生の時に初めて見に行った彦根城。この彦根城は、木村拓哉さんと共演した映画『武士の一分』(06年公開)の撮影にも使用されているそうです。
また、本書でも最初に紹介している”白鷺城”という別名を持つ姫路城は、坂東玉三郎さん主演でたびたび上演された、舞台『天守物語』のモデルになった城。同作は、天守の主である美貌の妖(あやかし)・富姫が、鷹を追って天守に登ってきた若き鷹匠・姫川図書之助に出会い恋に落ちる……という美しく幻想的なストーリーで知られます。原作者・泉鏡花は、姫路城の天守閣には魔性の者たちが棲むという伝承をヒントに、同作を描いたのだとか。
過去に姫川図書之助役を演じたこともある三津五郎さんも、『日本の城ミステリー紀行』のロケで同城を訪れた際には「夜の城独特の美しさに、ここはもしかしたら魔界とつながっているかもしれないと違和感なく思えたものです」(本書より)と当時を振り返っています。…
そして巻末では、城めぐりが趣味という、お笑い芸人「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんと特別対談しているのも見逃せません。天守閣のみならず、櫓(やぐら)や門、石垣など、城好きならではの視点で語られる城トークは必読の面白さ。名優・坂東三津五郎さんの、舞台では見られない”城マニア”の素顔を偲ぶよすがとなることでしょう。
【関連リンク】
坂東三津五郎公式ホームページ
http://www.kabuki.ne.jp/mitsugoro/