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「社長公募」で世間を驚かせた経営者が、再び経済界に話題を提供している。キーセットなど自動車の電装部品を手がけるユーシンの田邊耕二会長兼社長の2014年11月期報酬総額が、14億500万円に上り、役員報酬額の歴代トップに躍り出たことが明らかとなったのだ。
上場企業は10年3月期から「役員報酬1億円以上」の高額報酬者を開示している。東京商工リサーチによると、これまでのトップはカシオ計算機の樫尾俊雄元会長の13億3300万円(12年3月期)だったが、田邊氏はこれを7200万円ほど上回った。ちなみに樫尾氏は退職慰労金だったが、田邊氏は基本報酬と賞与のみである。
ユーシンの14年11月期の取締役9人(社外取締役を除く)の役員報酬額は15億9600万円。内訳は基本報酬が8億9800万円、賞与が6億9800万円。田邊氏の基本報酬は7億7500万円、賞与が6億3000万円。田邊氏の占有率は基本報酬が86%、賞与が90%と文字通り独り占めの状態だ。残り8人の取締役の役員報酬は一人平均2300万円。田邊氏の役員報酬は他の役員の61倍、従業員(平均給与586万円)の239倍に相当する。
ユーシンは14年11月期、4億3300万円の最終赤字である。前期の最終黒字はわずか4億円で、その前期は15億3700万円の最終赤字だった。赤字企業であるにもかかわらず、田邊氏の役員報酬は右肩上がりで急増した。12年11月期の役員報酬は前期比3.4倍の4億6500万円、翌期は1.8倍の8億3400万円。そして14年同期が1.7倍の14億500万円だ。
有価証券報告書には、「取締役の報酬については、株主総会の決議によって決定した取締役の報酬総額の限度内において、会社業績等を勘案し、取締役会で決定しております」と書かれている。果たして取締役会がきちんと機能しているのか、疑問の声が上がってもおかしくないといえよう。
なぜ、赤字企業の経営者が、全上場企業の中で歴代最高の超高額報酬を得ることができるのか。メインバンクは三井住友銀行、監査法人はトーマツ。三井住友銀行は93万株を保有する、実質第5位の大株主でもある。筆頭株主は自社保有の16.4%、取引行の三菱東京UFJ銀行は同9位(66万株を保有)の大株主だ。三井住友銀行と三菱東京UFJ銀行の責任を問う声も多い。
●社長公募に2度失敗
田邊氏はユーシンの2代目社長で現在81歳。青山学院大学経済学部卒業後に日野自動車で修業を積み、1961年に家業のユーシンに入社。78年に社長に就いた。健康に不安を覚えたことから、過去10年間は後継者選びを進めてきたが、ことごとく失敗に終わった。
最初は06年4月。自身の後任探しをすることと引き換えに、投資ファンドRHJインターナショナル(旧リップルウッドホールディングス)から20%の出資を受け入れた。RHJは部品メーカー、ナイルスの元社長である竹辺圭祐氏を新社長に派遣し、田邊氏は最高顧問に退いた。しかし、「RHJはナイルスとユーシンを経営統合させるために社長を送り込んだ」と受け取った生え抜き幹部たちが猛反発し、わずか1年3カ月後に竹辺氏を辞任に追い込んだ。田邊氏は社長に復帰し、RHJは保有株全株を売却して撤退した。
そこで10年7月、ユーシンは「公募」による後継者選びを始め、大きな話題になった。新社長に求める条件はシンプル。年齢は30~40代で英語が堪能。365日、国内外を飛び回ることができる体力を持ち、経営者に値する手腕を持っていること。これを兼ね備えていれば、年収3500万円以上が約束された。
東証1部上場企業が、新聞広告で「社長公募」するのは前代未聞のことだ。公募には2週間で1722人の応募者が殺到した。その中から、東京大学出身の元外務省キャリア官僚の八重樫永規氏が選出され、11年5月に取締役社長代行に就任した。
しかし、「根本的な発想が公務員で、金儲けに徹しきれず、商売人には不向きだった」(田邊氏)としてお払い箱にした。「話題づくりをして株価をつり上げるつもりだったのでは」と皮肉る向きすらあった。
さらに14年2月には2度目の社長公募を打ち出し、新社長の最低保証年収を1億円に引き上げたが、応募数は前回の10分1以下の140人に減少。結局、応募者の中から新社長が選ばれることはなかった。「そもそも田邊氏に、社長の椅子を譲る気があるのかどうか疑わしい。結局、社長は自分しかいないと自ら納得して、終身社長のつもりなのだろう」(関係筋)という声も聞こえるが、田邊氏の常識を逸する行動は、当分鎮まりそうにない。
(文=編集部)