政治そのほか速
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全国人民代表大会(全人代、5日~15日)まっただ中の中国で、あるドキュメンタリー映像が一大センセーションを巻き起こしている。深刻化する大気汚染問題を糾弾したもので、動画投稿サイトで驚異的な再生回数を記録した。厳しい言論統制の中での勇気ある告発に国内外で称賛の声が相次ぐ一方、習近平政権の不穏な動きも見え隠れする。「映像の人気を国営企業改革や反腐敗運動に利用しようとしている」(専門家)というのだ。
ステージに立つ白いシャツとジーンズ姿の女性が、バックの映像に合わせて観衆に語りかける。米アップルの新製品発表会でのスティーブ・ジョブズ氏を思い起こさせるパフォーマンスを披露するのは、美人で知られる国営放送「中国中央テレビ」の元人気キャスターでジャーナリストの柴静氏(39)。
2月末に「穹頂之下」とのタイトルでインターネットの動画投稿サイトで公開したこの映像は、「2日間で1億回を超える再生回数を記録」(現地関係者)し、国内外で大きな注目を集めた。
「約1時間40分のこの作品で描かれているのは、発がん性のある微小粒子状物質『PM2・5』を含む大気汚染の実態だ。一児の母でもある柴氏は、生まれたばかりのわが子が腫瘍におかされていたことも明かし、共感を呼んだ」(同)
中国共産党による一党独裁下では、報道の自由は著しく制限される。その状況下で、大気汚染を放置する政府批判を繰り広げた柴氏をたたえる声は多い。ただ、このフィーバーに違和感を覚える専門家は少なくない。
『チャイナ・セブン 紅い皇帝 習近平』(朝日新聞出版)の著書がある東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉(ほまれ)氏は、「中国のジャーナリズムの可能性をひらいたという人もいるが、的外れな意見だ。習政権は、一党支配体制を打倒しようとする民主活動家らに対して、より激しい言論弾圧を行っている。彼女の映像は体制批判どころか、むしろ政権の後押しになるものだ」と指摘する。
映像の話題を中国共産党の機関紙「人民日報」が取り上げ、公安当局も公開当初、視聴制限には積極的ではなかった。党が、柴氏の主張が広がるのを黙認していたとすれば、狙いは何なのか。
「法令を形骸化して私腹を肥やしてきた腐敗官僚が、大気汚染を深刻化させてきた。大気汚染の放置は腐敗官僚を野放しにすることと同義。腐敗撲滅と環境問題の解決を一気に進めるために柴氏の告発を利用したのだろう」(遠藤氏)
映像公開は、全人代の開幕直前に行われた。全人代期間中の7日には、陳吉寧環境保護相が、大気や水質などの汚染について「経済発展と環境保護の、人類史上未曽有の矛盾に直面している」と述べ、改善に向けた取り組みへの意欲を示した。
タイミングよく出された柴氏の映像が、腐敗撲滅の延長線上に、大気汚染問題の解決を据える党指導部を勢いづかせたとも言えなくもない。
拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏も「映像が党指導部に好都合な内容だったのは確か」と指摘し、こう続ける。
「大気汚染問題を解決するには腐敗官僚の撲滅とともに、彼らが握る国有企業の利権にメスを入れなければならない。党指導部は、すでにこの改革に手を付け始めており、2月に国有企業を代表する26社に対して秘密警察にあたる『中央巡視隊』の派遣を決めた。3月に入って査察も始まり、3カ月の間に不正を徹底的に洗い出す構えだ。査察結果で、かなりの血の雨が降ることが予想される。柴氏の映像は、その改革の正当性を追認する材料になる」
世紀の告発映像の裏に習氏の影-。2015/3/10 16:56 更新