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[写真]アップルは9日、アップルウオッチを発表した。4月24日から日本や米国、中国など9カ国・地域で発売する。(ロイター/アフロ)
アップルは9日、米サンフランシスコでイベントを開催し、腕時計型端末「アップルウォッチ」を発表した。4月24日から日本や米国など9カ国・地域で発売する。最新のテクノロジーを搭載し、ウェアブルデジタル端末として「時計の未来像を示した」との声もあるアップルウォッチ。「時刻を刻む」という時計の本来の機能性や、そのファッション性については、どのような見方があるのか。時計専門誌で時計記事を担当、時計学校を修了した経歴をもつ篠田哲生氏に寄稿してもらった。
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ウェアブルデジタル端末である「アップルウォッチ」の発売が、4月24日に決定した。スマートウォッチの決定版とも言われるこの製品が発表されて以降、多くのメディアで「時計の未来像」が語られ、機械式時計の売れ行きに陰りが出るのでは?と予想する論調もあった。
パリの老舗高級百貨店ララリー・ラファイエットでは、アップルウォッチ用の展示スペースが用意され、日本でも伊勢丹での販売が決定。ファッション業界との連帯も進んでおり、コレット(パリ)、ドーバーストリートマーケット ギンザ(東京)、マックスフィールド(ロサンゼルス)など、世界のファッション系セレクトショップでも販売されるそうだ。
ケースやブレスレットの質感が非常に優れているため、高級時計も外装クオリティをもっと上げなければいけないだろうと見る時計ジャーナリストもいる。
今までのアップル製品の人気を考えれば、アップルウォッチが大ヒットすることは間違いないだろう。しかしそれに対する時計メーカーの視線は、驚くほど冷やかである。
そもそも携帯電話が行きわたった瞬間から、腕時計は実用品では無くなった。それでも尚、腕時計が消滅せず、むしろますます売れるようになったのは、嗜好品としての価値やファッションアクセサリーとしての楽しみ方が浸透したから。実用性よりも嗜好性を追求するようになった時計メーカーにとって、行き過ぎた便利さは評価に値するものではないのである。
アップルウォッチのファッション性
デザインに関してはマーク・ニューソンが関わっているため、評判は悪くない。しかしアップルウォッチの容姿は、彼がデザインを担当している時計ブランド「アイクポッド」の「マナティー」にそっくりなので、手放しで褒める人は少ないようだ。
ウェアラブルなガジェットをファッションとして売り出すというのも、見慣れた風景だ。時計業界ではすでに30年前に、スイスのカジュアルウォッチ「スウォッチ」と日本のタフウォッチ「G-SHOCK」をファッション化させて売り込むことに成功している。両者とも時刻を知るという行為ではなく、その時計を着けること自体に価値があるというライフスタイルを認知させ、社会現象にまでなっている。
さらに時計メーカーからすると、デジタルウォッチ全般に対する評価が、そもそもそれほど高くない(時計ではなくガジェット扱い)ので、「アップルウォッチ、なにするものぞ」という姿勢なのである。
時計としての課題
しかし、何よりも時計メーカーがアップルウォッチを評価しない理由は、バッテリー容量に関する問題だ。アップルでは公式にバッテリーが18時間しかもたないことを発表している。通話などもっと積極的に使えば、それ以下と言う事になる。わずか1日さえもバッテリーが持たず、頻繁な充電が必要となるモノを、“Watch”と呼んでいいのだろうか?
時計とは
そもそも時計の歴史は、駆動力を持続させるための苦労の連続だった。機械式時計の場合は、限りあるスペースに、なるべく大きくて強いゼンマイを収めることで持続時間を伸ばし、安定したトルクを長時間続けることで高精度を実現した。電気仕掛けのクオーツウォッチの場合は、省エネ回路や効率的な太陽発電システムを研究開発することで、小さな時計に中に様々な機能を組み込んできたという歴史がある。
いくら精密に作られた腕時計も、長時間動き続けなければ存在意義はない。つまり頻繁に充電すればいいだろうと考えるアップルウォッチは、時計メーカーの考え方とは正反対にあるのだ。
アップルウォッチが「時計」に与えるインパクト
しかしながら、米国の市場調査会社、Strategy Analyticsが予想した“1540万個”というアップルウォッチの年間出荷台数に対しては、時計メーカーもインパクトを持って受け止めているのも事実である。
既に嗜好品としての腕時計を楽しんでいる人の場合は、左腕はお気に入りのモデルで埋まっているのでさほど影響はないだろう。しかしこれまで腕時計に興味がなかった人々がアップルウォッチを手にする可能性は高い。そこでスマートフォンをごそごそと鞄から引っ張り出さなくても、手首の上にある機械で現在時刻がわかるという新しい経験をすることになる。つまり腕時計の便利さを知ることで、より本格的な腕時計へと興味を広げてもらう事を期待しているようだ。
さらにアップルウォッチの登場によって、デジタル技術と腕時計の融合が進むとみている人も少なくない。スイス時計ブランド「フレデリック・コンスタント」のCOOアレッタ・スタース・バックスは、「スイスで作られるクオーツウォッチの30~50%は、数年後にはデジタルデバイスと連動するだろう」と語っている。
事実、アップルウォッチとは異なる方式のスマートウォッチは、既にいくつか発売されている。
先述のフレデリック・コンスタントからは、クラシックデザインのドレスウォッチの内部に活動量計センサーを搭載し、スマートフォン側で情報を読み取るモデルが発表された。このセンサーは超省電力のため充電は不要である。モンブランからは、時計のストラップにデジタルデバイスを取り付けてスマートフォンと連動させる「e-ストラップ」が登場。カシオでは数年前から、スマートフォン側で時刻修正やアラーム設定を行う時計を作っている。さらに日本のインディペンデント系時計ブランド「ヴェルト」では、一つのケースの中にクオーツウォッチとデジタル表示を同居させ、スマートフォンから送られるメタ情報(情報に関する情報)を表示できるようにしている。
しかしいずれの技術も、「時計機能」を自立させた上で、付加機能としてスマートフォンと連動し、利便性を高めるという方式を取っている。それは頻繁に充電を必要とし、電池切れで現在時刻が確認できなくなる恐れがあるアップルウォッチ(と、それに類似するスマートウォッチ全般)は、長時間正確な時刻を示すという時計進化の道の上には存在していないという証明でもある。
早晩、アップルウォッチはバッテリー問題にぶつかると私は見ている。ここが改善されるかどうかで、“腕時計村”に迎え入れられるかが決まるに違いない。
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篠田哲生(しのだ てつお)
時計専門誌、ファッション誌、ライフスタイル誌、新聞など幅広い媒体で、時計記事を担当。毎年数回のスイス取材を行い、時計学校を修了した経歴をもつ。
本記事は「THE PAGE」から提供を受けております。
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