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超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、カナダで行われたテレビゲームの学術会議について考えます。
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ブリティッシュコロンビア大学(カナダ・バンクーバー市)でテレビゲームの学術会議「プレススタート:日本ゲームの文化・産業・イノベーション」(主催:ブリティッシュコロンビア大学日本研究センター)が2月27~28日に開催され、バンクーバーに拠点を持つ日系企業4社も参加した。閉会式では在バンクーバー総領事の岡田誠司さんも登壇し、産官学で進むブリティッシュコロンビア州の産業支援を印象づけた。
石炭や林業などの第一次産業が中心だったカナダでは、2000年代からITやデジタルメディアに関する産業育成が進行中だ。中でも西海岸に面し、ハリウッドにも近いブリティッシュコロンビア州では、世界に先駆けて税制控除などを実施。産業クラスター化の進展と共に、海外投資の呼び込みにも成功。今ではゲーム関連企業142社のうち海外企業が21社(うち日系企業8社)にものぼっている。
こうした中、文学や映画からマンガ・アニメなどのポップカルチャーまで、幅広い分野で日本の文化研究を進める同センターで、初めてゲームを対象とした学術会議が開催された。ディレクターをつとめたクリスティーナ・ラフィン教授は開催意図について「自分自身は古典文学が専門だが、ゲームは日本文化を研究する上で格好のサンプルで、ゲームが持つ学生を虜にする力についても強い関心があった」と語った。
会議は初日が学術界からの研究発表、2日目が産業界によるパネルディスカッションという構成で行われた。基調講演では早稲田大学IT戦略研究所所長でビジネススクールのディレクターもつとめる根来龍之さんが「ゲームの業態変化と未来の選択:レイヤー戦略の未来像」と題して講演し、家庭用ゲーム機からスマホゲームに移行しつつある日本のゲーム産業について解説。他に法律やジェンダー論、教育への応用なども議論された。
またパネルでは、カナダのバンクーバーに開発拠点を持つセガネットワークス、バンダイナムコスタジオ、カプコン、DeNAの各企業が参加し、進出の動機や日系企業との協業の秘訣(ひけつ)などが話し合われた。バンダイナムコスタジオの中山淳雄さんは「日本のゲーム作りやマネタイズのノウハウと、カナダ人のビジュアルセンスを組み合わせて、北米を中心に世界でヒットするスマホゲームを作りたい」と抱負を語った。
市内のみで約64万人、周辺地域を含めても約210万人のバンクーバー市は札幌市と同程度の規模感で、そのぶん人間関係も近しい。それまで産業界と接点のなかったラフィン教授も、個人的に親交のあった総領事の岡田さんを介してコンタクトをとり、会議の準備を進めていったという。本会議をきかっけとして、産官学のコミュニティーがさらに広がれば、今後進出する日系企業にとっても大きな支援になるだろう。
産官学連携は志を共有する小集団を中心に、草の根レベルから徐々に育てることが望ましく、行政・大学・企業の3者が集まる地方自治体は一つの目安となる。日本のゲーム業界でも福岡市が成功モデルの一つで、都市国家のシンガポールやオランダのユトレヒトなどもこのパターンだ。逆にトップダウンで進めても、なかなかうまくいかない。バンクーバーそして本会議の事例は、日本においても参考になるといえそうだ。
◇プロフィル
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。2011年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、2012年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。