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3月8日、Yokohama Bay HallでUVERworldがライヴを行った。掲げられたタイトルは、『彰生誕祭』。この日はギター彰の誕生日にあたり、9月の誠果以降恒例となりつつある、メンバーが生まれたことをライヴで祝うというスペシャルな夜である。
この記事の写真&セットリスト
3曲目の「Fight For Liberty」が終わった時だった。TAKUYA∞が、フロアでギュウギュウにひしめくファンを見回して言う。
「横浜、『男祭り』以来2か月ぶりだな!何でこんなに熱いんだ?」
言葉の通り、オープニングからキラーチューンの連射に、早くも会場は熱気が渦を巻いている。吹き出しては瞬く間に気化していく汗が湿気となり肌にまとわりついてくる。そんなフロア空気に満足気にうなずいたTAKUYA∞がこう続けた。
「大好きなギタリストの生誕祭だからな!よし、UVERworldでしか出せない空気を。UVERworldにしか出せない音、UVERworldにしか吐けない言葉を聴かせてやるよ!!」
そして始まった「Enough-1」。ピッコロのループが祭り囃子を連想させ涼秋を煽る。しかしそこに重なるのは、エッジーなバンドサウンドと、誠果のサックス、さらにはオーストラリア先住民の民族楽器・ディジュリドゥ。UVERworldならではの、あらゆるボーダーを超えた真のミクスチャーロックだ。懐かしいのに新しいという極上の刺激に触発され、観客が吠える。間髪を入れず、流麗な旋律が流れ、そのイントロで観客がさらに沸く。初期のナンバー「Just Melody」である。出会いも別れも……すべての経験が音になりメロディへとなっていく、そんなTAKUYA∞の言葉が心の深部で響く。洋楽をそのまま飲み込んだ音楽で煽動するバンドは沢山いる。ゴリゴリの音で乗せるバンドも沢山いる、でもUVERworldはそのどれとも違う。美しいメロディと度胆を抜くサウンドアプローチと嘘のない言葉で聴く者を奮起させる。これも彼らの一面だ。彼らが初めからブレずに持ち続けているものの一つに触れた気がした。
「3月8日はミツバチの日でもあります。今夜ミツバチになった彰が……」。スレスレの下ネタによる真太郎流、祝福の言葉もあった。その後、彰が最上のテンションで祝うオーディエンスに「言葉にするのは照れ臭いんですけど、最高に幸せです。久しぶりにやる曲もちょいちょい入れていくんで楽しんでください」と期待に火を注ぐ。そしてTAKUYA∞が言う。「『生誕祭』は誕生日のメンバーがセットリストを決めてるんだ。彰は、“何年前にやった?”って曲を入れてくるんだよ。彰のためならやってやるよ!」
このMCを受けてブチ鳴らされたのは「GROOVY GROOVY GROOVY」。2008年発表の3rdアルバム『PROGLUTION』の1曲だ。体の奥底から湧き出す衝動を凝縮したサウンドと歌が、すさまじい音圧となってダイレクトに肌を叩く。フロアにせり出したステージにTAKUYA∞が進み出る。立ち位置をチェンジした克哉と彰が体を“く”の字に折りながらギターリフを掻き鳴らし、信人がドップリと入り込んで一心にベースを弾く。真太郎が頭を左右に振ってドラムを叩いている。その勢いのまま、「GO-ON」へとなだれ込んでいった。
「邪魔だな」。“せり出し”の先で、直接オーディエンスの声を聞こうとTAKUYA∞がイヤーモニターをむしり取る。後ろで彰がゆったりとギターを爪弾いていて、その音色をバックにTAKUYA∞は話し続ける。「次の曲はみんなで空気を作ろうぜ。鳴っているこのギター、彰が今気持ちいいと感じているスピードなんだ。その上に信人がベースを、真太郎がドラムを乗せて、俺と克哉と誠果が乗っかる。それにお前らがノってくれたら、俺たちが気持ちよくなるからさ」。
その場の空気が音になって、受け取ったオーディエンスが熱くなる、その熱がアーティストを刺激する。まさにライヴの循環をそのまま音楽にしていくセッションが始まる。曲はTickのカバー「志」だ。ミディアムスローのサウンドにラップが乗る。届けられる音楽にドップリと浸かるオーディエンス。そこに「気持ちいいヤツら手を挙げな」というTAKUYA∞の声が響くと、ベイホールにいる全員が手を挙げ、その手を左右に振る。その光景は音楽で繋がっている、そう確認させてくれる。ピースフルで温かい空気がホールに充満する中、次に放たれたのは、彰が揺るぎない自信を得る転機にもなった1曲「NO.1」。“俺達がNO.1”と絶唱する数多くの声は誇りで満ちていた。
制作期間に入っているUVERworldにあっては、TAKUYA∞が滋賀に帰り、インディーズ時代みんなで集まっていた小さな部屋で、次のアルバムの曲を作っていると明かす。そして「19歳の頃に書いていた日記にさ、あと1年頑張って何もできなかったら死のう、と書いてあったんだ、そんな覚悟もなかったのに」と言う。そして始まったのは「7日目の決意」だった。当時の想い、20歳でUVERworldを結成しここまで駆け抜けてきたその間にある想いを源流とした「7日目の決意」が鳴り渡る。TAKUYA∞が気持ちを乗せた歌を響かせる。誠果がコーラスで想いを重ねる。彰が弾く澄んだフレーズが聴く者の心の柔らかい部分をギュッと締め付ける。それは、夢は叶うと信じてこの短い一生を生き抜く、という、オーディエンスとの約束のようだった。
スリリングな音の応酬に意識が釘付けになった「Massive」、血の沸く快楽が押し寄せた「IMPACT」……容赦なく浴びせられる音楽の奔流に観客は反応し、ボコボコと跳ね、声を上げる。Yokohama Bay Hallはライヴハウスにしては広く、天上も比較的高いハコだ。それでも、上昇し続ける温度と湿度は尋常じゃない。深く息を吸っても呼吸感が薄く、酸素を摂取できている気がしない。それでも、その先を、UVERworldとオーディエンスは求める。「大好きな音楽を真面目にやったら苦しくなる。でも格好悪くてもいいだよ、ぶざまでもいいんだよ。伝えたい歌があるから歌うんだ。フロアもツラいと思う、それでも大好きな音楽があるから手を伸ばしてくれるんだろ?」。TAKUYA∞が絶叫する。オーディエンスが拳を振り上げ同意する。その反応を見て届けられたのは、ラストの曲「0(※1) choir」だった。格好つけない素直な歌が響く。少しキュートで不器用で、夢と愛と温もりと決意の詰まった音楽が響く。彰、克哉、誠果が歌っている。信人と真太郎が気持ちに寄り添ってリズムを紡ぐ。そこに、オーディエンスが歌声と気持ちを重ねていった。
すべてが終わったステージで、TAKUYA∞に水を向けられた彰が言う。
「本当に世界一幸せでした。少しでもUVERworldが良くなるように、今年も生きて行きます」。
大好きな音楽に不器用なまでに全霊を傾ける。表面上のカッコ良さよりも、内面と向き合い出て来たものを音楽に変換する。そんな彼らにオーディエンスたちは賛同し、ああなりたいと背中を追いかける。その両者の姿は、美しく、この上なく格好いいものだと思えた。
メンバーが去ったステージに、新たなライヴ情報が映し出された。それは、最高の誕生祝いに対する、お返しのようだった。
文/大西智之
(※1) 「0 CHOIR」の“0”は正しくは、0に/が入ったものです。